東西納豆ネギ事情
今週のお題「納豆」
時は七〇年代。母の買ってきた大粒納豆をパックの中から器に取りだし、真っ白になるまでかき混ぜる。
蚕のまゆを思わせるそれに、卵としょうゆをたらり。それにからしを混ぜる。白いかたまりが、黒っぽい茶色に染まります。
混ぜた箸をつつーっとあげると、白い糸のかたまりと一緒に、茶色い豆がくっつきます。それが落ちてすーっと器の中に溶けこんでいく。
箸をくるくる回します。糸が蜘蛛の巣みたいに四方に走る。
「こらあ、なにやってる!」
ふだんは優しかった父が叱りつけてきました。
東京が実家だった父は、よくそれに刻み白ネギを入れていました。
「やっぱり納豆には白ネギだな! おまえも食べてみろ」
やったあ、大人の仲間入り!
うれしくなって大きくうなずき、卓に座って納豆を大きくひとくち。
「ジャリ!」
白ネギが頬の粘膜にあたった。
ご飯に載せると、ネギだけ自己主張がすごいのなんの。
白ネギの味も強烈で、正直納豆は苦手でした。
八〇年代。結婚して西の広島で大粒納豆を食べることになりました。
当時は、小粒納豆はありませんでした。
いまの納豆のひとまわり大きな粒が、主流でした。
ネギは青ネギで、太さも少し、ありました。
蚕のまゆみたいな納豆に、卵としょうゆ、からしをたらり。
――おいしいのかな?
東の白ネギには懲りていました。また頬の中がジャリジャリいうだろうしね。
ご飯に載せて眺めます。青ネギと納豆がうまく溶け合っているように見えます。
夫が箸を取りました。
「食べてみなよ。うまいぜ!」
助けを求めるように、食卓をみまわします。
なぜか朝食ではなく、昼食に納豆なんです。
器に入った白いかたまりがでーん。
ほかに食べるものはなさそうです。
おずおずと、ひとくち。
青ネギはほどよく辛かった。しんなりしたネギの柔らかさが味とマッチング。
うまかった。
感動した。
納豆は、青ネギにかぎります。