場違いなものって、ありますよね。
棚の上にニワトリが、ずらりとならぶ鳥小屋。ふくふくと、倖せそうに卵を温めている白色レグホン。平和でおだやかな日常。しかしそのとなりで埋もれているのは、陰険な目をした黒いネコ……。
山の奥、だれもいない沢のそば。白いワンピース(子ども用)が置かれている。
だれが、なんのために置いたのか……。目撃者はそれ以来、自分の娘をその沢に置き去りにする悪夢ばかり見ているとか。
わたし、ことし(二〇二二年)の初詣の神社で、そんなたぐいの場違いなモノを発見したんです。
それは、こんな風景でした。
いつものように、神社へお参りしようと手水舎(てみずや)に近づきました。
いつものように、黒い木製の屋根。黄色いひしゃくがある。灰色の石をえぐってテラテラした台もある。しかし水だけがない。
「えーっ。どうしてどうして?」
なぜ水がないの?
頭をガツンとやられたようなショックでした。
わわわわ。あわわわわわわ。わたしは焦って周囲を見まわしました。
がらんとした境内です。イチョウの木の針金めいた枝だけが、海いっぱいを映したような空にそびえていました。
なのにどこからどう見ても、水がない。どうしようもない。水が少ないのではなく、まったくないのです。これで神社にお参りするなんて、どう考えても無茶。穢れをきらう神さまに、たたられたらどうしますか。おかげをもらいに来て、
「たーたーりーじゃー」
ととなえるオババさまが出てきたりして、あーこわ。
もしかしてお賽銭が集まらなくて、水道局から水を止められた?
いずれにせよ、今までこういうことはなかったので、頭の中はパニック。
わたしは、殺虫剤を前にしたゴキブリのように、サササッと周りを見まわしました。
よく見ると、その端にポンプ式アルコール消毒液。
『ビオレ 手指のアルコール消毒液』
じゃーん。
消毒液!
「えーっ! 消毒液!」
なぜ!
なんのためにこんなものが?
脳裏をかすめる、スーパー入口の消毒液コーナー。
いつもはそれを手指に浴びせながら、スーパーに入って行くんですが……。
神社にもこれで、入れってコト?
まさか、これが、手水ってわけ?
落ち着け、落ち着け。
とりあえず、ここの神社について考えるんだ。
アルコールで手指を清める。
アリか、ナシか。
白か、黒か。
ソクラテスかプラトンか。
みんな悩んで大きくなった~(おっきいわ、おおものよ)。
うーん……。
わたしは、頭から湯気が出るまで考えこみました。
そして、ひとつの結論に達しました!
アリだ!
だってあの消毒液は、御神酒《おみき》なのだ……。アルコールだけに……(^^;;)
試飲しよう!
美味いだろうか。
でも、飲んでいいのかな。
「いやー、驚いたなあ」
前代未聞!
神社が消毒液に頼るなんて!
原因は、コロナだな。
コロナだから、消毒液をつかうんだ。
「このあいだ神社へ行きました、コロナをもらって帰ってきました」、では話にならんもんな。ここは病気を治して千年の実績をウリにしている神社ですからね。
「病気など、この消毒液とお守りで退散だ!」
なるほど、科学と神道、ダブルの効果。しつこいコロナのさまざまな悪意も、これでキレイに治ります。これには、人類の知恵と知識の結晶がつまっているのだー!
洗濯洗剤の宣伝かい(汗)
身体を清水で概念的に清めるのではなく、消毒液で生物学的に清める……。
間違いない。うん。間違いない。
しかし神霊を呼ぶ鈴のついた神社の玄関前で、
『ビオレ 手指のアルコール消毒液』
これはなかなか、めまいがする。
神道もたいへんねー。